中国の反日デモを俯瞰する

実際のところあんまり中共は事を荒立てたくないのです。2002年あたりに総書記が胡錦涛に変わってからはどちらかというと従来よりだいぶ親日…とはいかないまでもソフト路線「対日新思考」で、今回のデモがヒートアップする以前から、ちょくちょく過激な反日サイトを潰してましたから、収集つかなくなくなりつつある現状は天安門改革派の生き残りである胡錦涛としては立場の微妙なあたり相当困ってると思われます。

そもそもご当地では前任者江沢民が力の限りを尽くして「いかに党が正当であるか」を中心に教育をなさっておったのですが、日本の共産党の自他共に認める最大の功績が「戦時中体張って反戦運動しましたよー」でありそこに拘泥するのと同様、中国共産党の最も光輝いていたシーズンも抗日戦争期でありまして。とりあえずスッゲー凶悪な奴相手に頑張りました、という話についついなっちゃうわけで。それなりに毒の抜けた現実の日本像なんてのはその点邪魔なわけで。とりあえずデフォルメした日本像が結構普通に見られるです。このあたり、『諸君』4月号の『「反日」教育基地総本山を往く』という記事がなかなか面白うござんした。まあ、中共にその気が無くても事実上反日教育になっちゃってるのが現実ですな。

かてて加えて、ご当地では日本の情報が入りにくい、もちろん言論や出版が統制されまくっているというのもあるのだけれど、日本の立場を表明するべき外務省のページが基本的に日本語と英語だけっちゅーのはよろしくない。そりゃ英語は頑張れば読めるけどさ。誰でも母国語以外はそうそう読まないよ。めんどくさいもの。中国人にわかってほしいことは中国語で書いてくれ。

反日デモもあれだけ人数が集まって凝ったプラカードとかずらずら出てくると、彼らの中には本気で日本の軍国主義化に恐怖と怒りを感じているのではないかと思える部分がある。日本の現状が伝わってない中での伝言ゲームだから、日本の内閣がナチ化しつつあり靖国にはA級戦犯銅像がずらっと並んでるぐらいのイメージは持ってることうけあい。

日本のこれまでのがんばりが通用しない現実

日本駐中大使館なんかはODAの情報などが多少なりとも載ってるけど、もっとFAQ形式ぐらいわかりやすーく一問一答で中国国民の皆様に「あんたの言い分はわかるけどそれとそれはいいがかりでこれとこれとはこういう理由」ぐらい平易かつ理路整然と不満の声に対する回答を示すべき。簡体字繁体字の両方でもちろん韓国向けはハングルでね。

もちろん日本も今までいろいろやってきましたよ謝罪とかODAとか、しかし一部ではそうした認識がありながら、どうも「それはそれ」ということでもあるらしい。香港の政治討論番組など見た範囲では多少なりとも日本に理解のある知識層でも今回は許せないらしく、それはどういうことかといえば80年代ぐらいまでの日本の平和外交は評価しないでもないが領土問題やら靖国問題やら教科書問題やらで日本の右傾化赤丸急上昇、なので日本は悔い改めよとまあそういう認識らしいのね。つまり、過去の善行はリセットされて、『今、日本は何をするか』が求められているわけ。逆に言うと、中共としては「まあ日本もわしらの不満に答えてくれてるからそのへんにしとこうよみんな」と言いたくてもその材料がない状態ともいえる。

ここで問題を整理してみよう

今回のデモの中心に横たわる日中の問題は大きく3つ。このうちどれか一つでも解決すれば、今回の騒動を解消するに十二分な口実が成立するだろう。

領土問題

中国はでかいだけあって色々な領土問題を抱えておりましたが、仇敵ロシアとの領土問題は中露友好条約によって一応の決着を見、インドとの国境問題も解決の方向に向かいつつありますで、いよいよ東シナ海に焦点が当たってきたという事情があるようですな。というわけで釣魚台および海底資源です。

水産資源も海底資源も、金額ベースにすれば3桁兆円にもなる領土問題です。お互いここで譲歩するのはそう簡単には無理。

あ、ところで「中国は日本の敵!台湾は日本の味方!」という論調がたまにありますが、釣魚台に関してはいつもいがみあっている中台香港3者ががっちりタッグを組んで「日本のじゃねーよ」と頑張ってますなあ。台湾の地図にも普通に載ってるし。

教科書問題

もう検定通っちゃってる教科書を今更中国の言い分にあわせて修正するというのもなかなか難しい。まあがんばればできることではあるんだけど、内政への大きな干渉ということにもなるので日本の立場上めんどくさい。

靖国参拝

実は3点の中ではここが唯一の譲歩のしどころだ。なにしろ靖国参拝やめても経済への打撃はないし、手続き上の問題もないし、実質的には痛くも痒くもない。口実としてくれてやるにはベストな条件ではないか。
とはいえ政治問題の焦点となってしまった時点でここで譲歩することも少々難しくなってしまった。デモなどの外圧下靖国やめろーやめろーといわれている以上、参拝をやめることは内政干渉に屈したという形になってしまうので、あっさり切るにはみんながカードに注目しすぎてしまったのだな。

八方ふさがりなのか?

さあ困った、こちらからは出せるチップがない。むこうは振り上げた拳の納めどころがみつからない。普通こういう場合、文化交流なんかが問題を軟化させてくれたりするのでありますが、今中国受けするアイドルちうと誰だろう。意外とアジアでは日本のAV女優が大人気だったりするらしいですがAV外交ってのも国家が推進するわけにもいかんしな。

そこで我々が思い出すべきなのが、戦車オタクのあの人なのですよ。

オタクにして戦車マニアにして少女好きはネトウヨか?

なんか「ネトウヨ=軍オタ」みたいなステロタイプが世の中にはあるらしいですが、日本を代表する戦車マニアとして最も知名度の高いのは誰でしょう?

正解はこちら
経歴みればわかりますが宮崎駿はバリバリの左翼という枠にあてはめることが容易です。漫画家も芸術家の一種ですから、結構左翼の人いるんですよね、手塚治虫松本零士なんかも赤旗祭りで子供向けのトークをやったりしてましたし。
宮崎映画はラピュタぐらいまでは面白かったけどその後の映画はなんだかなーという向きもあるようですが、ここに一つの興味深いムーブメントが。

香港の映画サイトの『ハウルの動く城』評を見ると、女性ファン軍団による「ハウルステキー」という絶賛大合唱が怒涛のごとく繰り広げられ、「おまえら何日本の映画なんか誉めてんだ」というツッコミも流されるだけです。国内でもそうでしたが、あの異様なまでに乙女最適化された映画パワーの前には反日も愛国も関係ないらしい。

そこにきて、宮崎駿改編内地熱賣童話という報道もありましてなんか周辺は妙に盛り上がっています。要約すると「宮崎駿が中国の童話に感動して是非映画化したい、6月には中国に来るらしい」とかナントカ。

宮崎駿なら愛知博で主役張れるぐらいの日本の文化人の代表格ですし、そのタマシイはともかく作品はファミリー向けで実に一般人受けしますから政府の後押しだろうが国家間の協調だろうが取り放題です。もしこの映画化の話が本当であれば、ここを切り口に問題をなし崩しにできるかもしれません。

というわけで

中共

  • 本音ではあんまり盛り上げたくないけど止められない
  • このままヒートアップして矛先が自分に向くのだけはなんとかしたい
  • 収まりどころが見つからず正直困った

日本

  • 中国の事情が複雑すぎてどうしたらいいのかわからない
  • このままヒートアップしたら困る
  • 譲歩しどころが見つからず正直困った

といったところでしょうか。まあ外務省はもっと啓発に努めて欲しいところですし中国は中国で末端の警官ぐらいはちゃんと制御しろってかんじですが。

というわけで宮崎映画による一発逆転というのを期待したいところです。

でもね

その童話、日本語化されてないらしいんスよ…ガセねた度高いってそれ。